長野県下伊那郡、松川町。代々続くりんご農家の後取りとして生まれた実(みのる)。
母親の死後、父親と二人で農園を切り盛りする彼は、週末になると、独り東京に出向き、お笑いライブに出演していた。生まれつき吃音を持つ実だったが、芸人として舞台に立つ時だけは流暢に喋れた。自分の喋りで人を笑わせている瞬間が、何よりも幸せだった。実(みのる)は、りんご農家として生まれつつも、お笑い芸人になるという夢を抱いていた。
しかし、りんご農家を継ぐ者には25歳になる年に、ある大切な儀を行わなければならなかった。それは、町を納めるりんごの神様に挨拶をし、一人前のりんご農家として認めてもらう奉納祭だった。奇しくも、実が受ける奉納祭の日は、「WAGEIグランプリ」と呼ばれる、お笑い芸人なら誰もが目指すべき超大会と同じ日。
笑いに進むのか?りんごを継ぐのか?実の人生のタイムリミットは、刻一刻と迫っていた。
なぜ実は、そこまでしてお笑いに突き進むのか?そこには、“母親の死後、笑顔を失った父親を笑顔にしたい”という強烈な想いがあった。母は生前、“実にしかできないことを、一生かけて実らせなさい”と実に説いていた。
”父さんに笑って欲しい”
それは、実が、実にしかできないことだと、胸に秘めていた想いだった。
そして迎える運命の日。
# 10/9(金)全国公開初日に寄せて
長野県での先行公開から1週間。
本日、映画「実りゆく」は全国で公開させていただくことができました。
今まで作品を支えてくださった全ての方々、そして、作品を楽しみに待ってくださっていたお客様に、今一度、感謝申し上げます。
一時は、コロナの影響で、公開さえも危ぶまれている状況でしたが、こうして初日を迎えることができましたのも、携わっていただいた皆さまのおかげ、そして、りんごの神様が導いてくださったものだと感じています。
この作品が、全ての方にとって“実りゆく”作品となることを祈っています。
今日まで本当にありがとうございました。そして、これからもまた宜しくお願いします。
2020年10月9日
「実りゆく」監督 八木順一朗
長野県下伊那郡出身の男女二人組ロックユニット。ハスキーでオンリーワンな松尾の歌声と、ブルージーで情感深く鳴らす亀本のギターが特徴。2007年結成、2014年メジャーデビュー。2018年日本武道館ワンマンライブ開催。同年、「FUJI ROCK FESTIVAL」GREEN STAGE出演。ドラマや映画、アニメ等の主題歌を多数手掛け、最近ではももいろクローバーZや上白石萌音への楽曲提供も行なっている。