新型コロナウイルスの感染拡大を契機に県内への移住に関心が高まっている。感染者が多い大都市圏を避けて地方での生活を望む人が多く、県内の空き家の紹介サイト「空き家バンク」のアクセス数が増加。移住者を積極的に受け入れてきた県や県内自治体は好機と捉えるが、相談者の多くが感染拡大地域の居住者だけにすぐに受け入れられないジレンマも抱える。
七月末に開かれた県主催のオンラインの移住相談会。長野市職員が首都圏の会社に勤務する三十代男性とパソコンの画面越しに向き合っていた。「のびのびと子育てをしたいので、長野市に住みながら働きたい」と話す男性に、市職員は「コロナをきっかけにテレワークの活用が広がり、仕事はどこでもできると移住を考える人が増えてきました」と応じた。
市は昨年度まで首都圏まで担当者が出向き、面談形式による相談会で市内への移住を斡旋してきた。だが、感染拡大のあおりを受けて本年度の相談会は開催できていない。移住相談の件数は昨年と比べて減ってはいるものの、オンライン相談会をスタートさせた五月以降、働き盛りの三十代を中心に移住を希望する相談が多く寄せられるようになった。
市には強みもある。市内への移住を検討する人の決断を促すため、県外の企業が市内に本社機能を移したり、事業所を新設したりして三人以上の社員が市内に移住した場合、その企業に最大五百五十万円を支給する制度を七月に導入しており、既に都内の一社が活用を検討しているという。
移住相談は他の自治体でも増えている。茅野市ではオンラインの移住相談会を始めた四月以降、長野市と同様の相談が複数寄せられた。須坂市がオンラインで開いた移住相談会には、東京、大阪の三十〜四十代を中心に「感染が怖いので通勤電車を利用したくない」「ステイホームの期間中に自宅が狭いと気付いた」とした声も目立った。
県と県宅地建物取引業協会が立ち上げた「空き家バンク」の閲覧数は、登録制をやめて誰でも閲覧できるようにした昨年九月以降に伸び続けていたが、首都圏をはじめ大都市圏を中心に感染が一気に拡大した四月は昨年同月と比べて約二・五倍に達し、五、六月になると三倍程度に跳ね上がった。東京、愛知、大阪などからのアクセスが多いという。
県信州暮らし推進課長は「地域の担い手となる人材を確保する絶好のチャンス」と話す。一方で感染の収束は見通せず、すぐに移住を呼び掛けられないもどかしさもある。「今は移住後のライフスタイルや必要な資金を考え、移住の目的を明確化する準備期間と考えてほしい」と話した。
2020年8月4日 更新 中日新聞長野版WEB版会員限定記事から。